Vol.2 プラチナ・ワールドトレンド | プラチナ・トレンド・インタビュー | プラチナ・ジュエリーの国際的情報サイト|Platinum Guild International
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プラチナ・ジュエリーの国際的広報機関による情報サイト

ジュエリージャーナリスト 本間恵子さんに聞く

ジュエリージャーナリストの本間恵子です。
2回目のテーマは「プラチナ・ワールドトレンド」。世界的視点から見た最近の傾向と、
ジュエリー史において今の時代がどのような流れに位置しているのか、
縦軸と横軸の両面から「プラチナ・ジュエリーの現在地」を探りたいと思います。

Vol.2プラチナ・ワールドトレンド

シンプルからデコラティブへ

毎年3月末、スイス・バーゼルで開催される世界最大の宝飾と時計の見本市「バーゼル・フェア」を今年も取材してきました。
まず、ファッションの傾向から話をすると、シンプルに形をキレイにみせる、というトレンドから、少しデコラティブな方向に向かいつつあります。いろんな柄が細かく入っていたり、刺繍が施してあったりと、服そのもの、人体そのものを着飾るイメージです。そのため、ジュエリーもこれまではあまりつけ過ぎない流れがありましたが、だんだんと「ジュエリーをつけて美しく飾ろう」という機運が出てきました。
たとえば、各ブランドが展開するジュエリーも、シンプルなものからデコラティブなものになっています。また、宝石も珍しいカラーストーンやダイヤモンドをふんだんに使って、とても凝ったデザインを作るようになりました。その点は従来までとは違う大きな流れといえます。

磨きの技術日本人ならではのこだわり

バーゼルで見たプラチナの特徴といえば、これまで主流だったツヤをあえて抑えるヘアライン加工やマット加工といったものから、今年はピッカピカに磨いたシャイニーなもの、磨きの技術の精を尽くしたものが目立ってきた印象があります。まるでプラチナの鏡、と言いたくなるような徹底的に磨き上げたアイテムをいくつか目にしました。
「磨き」という技術は、世界を見渡しても日本のプラチナ・ジュエリーの優位性が際立つ部分です。それは、職人さんの技術力もさることながら、日本人ならではの気概というかこだわりのようにも感じます。
日本以外の国の場合、磨きの技術はあっても、あまり細かいところまでは気にしない風潮があり、石と石の間の細かいところなど「ここ、磨き残ってるよ!」と言いたくなることが意外とあります。「このくらいで十分だろう」というのが海外のプラチナ。それに対して、「まだまだ。これじゃダメだ」と徹底的に突き詰めるのが日本のプラチナ、という印象です。

CADと3Dプリンタがジュエリー界にもたらすもの

今回のバーゼル・フェアでの最大の特徴は、CAD(キャド=コンピュータを用いて設計をすること)や3Dプリンタを前提としたデザインが出始めた、ということです。
時計の世界では前々からキャドを使ってデザインすることはありました。でも、ジュエリー業界ではまだまだ手でデザインスケッチを描き、それを職人さんに見せて蝋でひとつずつ型を作る、という流れが主流でした。それがCADでデザインできるようになると、手では描けないような変わった造形が簡単にできるようになります。実際、これまでになかったような幾何学的なデザインをよく見るようになりました。
また、3Dプリンタで型を作るようになると、職人さんによる手作業では造形的に、労力的に難しい形であっても簡単につくることができるようになります。
これは、手作業とCAD・3Dプリンタのどちらが良い悪いという話ではありませんし、手で作るものは古い、という話でももちろんありません。これまでになかった新しい動きとして面白い、ということです。実際、3Dプリンタで作られたデザインには、従来にはなかったとても面白いものが多いです。ここ100年のジュエリー史で振り返っても、デザインの変遷として大きな過渡期を迎えているのかもしれません。
たとえば、ひと口に「ハートのペンダントが欲しい」といっても、一人一人、イメージするハートの形は異なります。でも今後は、お客様が店頭で「こんなデザインのジュエリーが欲しい」という要望を伝え、店員がCADを使って「こんな形でしょうか?」とその場で描いてイメージを固めることができるようになります。さらには「では5時間後にお渡しできます」と3Dプリンタで加工することも可能になるわけです。

ジュエリーにおける「21世紀的なもの」

ジュエリー史という大きな流れで振り返ると、19世紀末にヨーロッパでは「アール・ヌーボー」という植物をモチーフにした曲線デザインが流行し、20世紀に入った頃にそれが衰退します。その後、「べル・エポック」という時期が20年ほど続きますが、それはまだ19世紀の様式を引きずっていたんですね。
そこから、現代に通じるモダンで新しいデザインの概念が現れたのが、1925年から始まる「アール・デコ」なんです。つまり、本当に新しい20世紀的なものができるまでに、20〜25年ほど必要だったことになります。何が言いたいかというと、歴史のカレンダーはある日を境に一気に変わるわけではない、ということです。少しずつ、ジワジワと変化しながら新しい潮流が生まれるわけです。
21世紀になって15年以上が過ぎましたが、「21世紀的なもの」も既に登場しているか、既にあるものが少しずつ変わりつつある状況なのかもしれません。PCによるジュエリー作りも、その過渡期のひとつの動きといえるのではないでしょうか。
今後は、消費者の好きな物が簡単に作れる時代になる一方で、職人の皆さんがさらに技術を磨くことで、これまで以上にすばらしいハイジュエリーが出てくる可能性もあると思います。消費者としては選べる幅がより広くなりますので、いい傾向といえるのではないでしょうか。

PROFILE: 本間 恵子

1964年、東京生まれ。ジュエリー・時計ジャーナリスト。女性誌、情報誌、ライフスタイルマガジンを中心に、ジュエリーやアンティークジュエリー、腕時計の記事を執筆。ライターとしてだけでなく、編集者、スタイリストとしても誌面作りに関わる。他に、業界団体が主催するジュエリーセミナーや、ブランドが行う顧客向けジュエリーセミナー、テレビのコメンテーターなども。

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